幼児退行していた11年間の話 その①

私は現在38歳である。27歳から38歳まで幼児退行をしていた。この度そのトンネルを抜けたようなので記録として残したい。

 

簡単なプロフィール

年齢:38歳

性別:女

職業:自営業

 

初めて幼児退行を起こした時のことははっきりと覚えている。27歳で初めて彼氏ができたときのことだ。27歳で初彼氏というと奥手のように聞こえるかもしれないがそうではない。初体験を15歳で済ませてから、どう控えめに言っても性には奔放であった。相手がたくさんいながらも「彼氏」というものがいなかったのは、ひとえに私自身が対象男性と安定した関係を作れなかった、もしくはその必要を感じなかっただけである。

 

その彼ともそんな風に気軽なセックス相手として出会った。これまでと違ったのは彼がとてもよい男だったことだ。セックス以外どのように男と過ごしていいかわからない私に、彼は丁寧に告白をし「ちゃんと付き合おう」といった。「ちゃんと」というものがどういうことかわからない。男性はセックスだけがほしいのだと信じていた私は、彼が私と様々なことについて話し合おうとし、私を理解しようとし続ける姿勢に衝撃を受けた。

 

そんな風にして私の心も自然と開かれていったある日、それは起きた。その日、たわいもない話をしていた彼は何かを説明するために、ジェスチャーとして手をグーにして振り上げた。私はその動作をまねした。そして、彼を見てにっこり笑った。その感覚はとても不思議で、今でもはっきりと覚えている。そのとろけそうに甘い感覚を。当時はなぜ自分がそのようなことをしたかわからなかったがいまではわかる。それは、「ほらみて、パパ私もできるの。すごいでしょう」という幼児そのものの感覚だったのだ。

 

それから私は何かがほどけていくかのように幼児退行していった。それはあがない難い欲求であった。自分が幼児になることを止められなかった。彼が歩けば後ろからついていって泣き出し、膝にのせてくれるようせがみ、体を洗ってくれるよう頼んだ。泣き出すときは必ず彼のTシャツで涙をぬぐい、ついでに鼻もかんだ。あの解放感と甘さ、幼児万能感は今でも陶酔を引き起こす。不思議なもので何も言わずとも彼も理解し「パパ役」を買って出てくれた。最終的にはおむつを買ってきて私にそれを装着させるよう求めさえした。

 

そのような蜜月は1年ほど続き、その後数年は不毛な時間を過ごすこととなった。私にとってはこの人がすべてであり当然結婚するのだと考えていたが、この人は当時ミュージシャン志望のフリーターであった(いまもそうだ)。生活力の面から不安になった私は、彼に企業の面接を受けるように言い、就職活動を手伝おうとした。今思えば完全に大きなお世話である。そして、きわめて支配的な行動であった。就職活動しようとせず音楽に固執する彼をなじった。支配性と幼稚性とは一見真逆に思えるけれども、結局根っこは一緒であることに当時は気づかなかった。

 

彼は忍耐強く人格的に円熟していたから、私の幼稚な支配欲に巻き込まれることなく、自然に距離を取り私から離れていった。

 

私は32歳になっていた。